古典文法・助動詞①
き、けり
文法的意味
「き・けり」の違い
詠嘆の「けり」
◎「過去」の用例
京より下りし時に、皆人子ども無かりき。《土佐》
京の都から土佐の国に下った時には、誰も子供がいなかった。
此の所に住みはじめし時は、あからさまと思ひしかど、今既に五年を経たり。《方丈》
ここに住み始めた時は、ちょっとの間と思ったけれども、今では既に五年が経った。
世の中に絶えて桜の無かりせば春の心はのどけからまし《古今・春》
この世の中に、もし全く桜が無かったならば、春を過ごす人々の心はのどかであるだろうに。
「あなや。」と言ひけれど、神鳴る騒ぎにえ聞かざりけり。《伊勢》
鬼に襲われた女は「きゃあ。」と言ったけれども、雷の大きい音のせいで、屋外の男は聞くことができなかった。
此れを聞きて、かぐや姫少しあはれと思しけり。《竹取》
これを聞いて、かぐや姫は少し気の毒だとお思いになった。
今は昔、竹取の翁といふ者在りけり。《竹取》
今となっては昔の話だが、竹取の翁という者がいた。
◎「詠嘆」の用例
山里は冬ぞ寂しさ勝りける人目も草もかれぬと思へば《古今・冬》
山里は冬は格別に寂しさがつのるなあ。人の訪ねて来ることもなくなり、草も枯れてしまうと思うと。
忍ぶれど色に出でにけり吾が恋は物や思ふと人の問ふ迄《拾遺・恋》
隠していたけれども、やはり顔色に出てしまったなあ、私の恋心は。物思いをしているのかと人が尋ねるほどに。
和歌の「けり」が詠嘆になる例
世をうみの泡と消えぬる身にしあれば恨むる事ぞ数無かりける《後撰・恋》
あなたとの恋の関係がつらいので(憂み/うみ)、「海」の泡のように消えてしまいそうな我が身であるので、あなたを恨む事も泡のように数え切れないことだ。
和歌の「けり」が詠嘆になる例
遥かの底に叫ぶ声仄かに聞こゆ。「守の殿はおはしましけり。」など言ひて待ち叫びするに、《今昔》
遥か遠くの谷底で(国司が)叫ぶ声がかすかに聞こえる。家来たちは「国司殿は生きていらっしゃったなあ。」などと言って返事を叫んだところ、
会話の「けり」が詠嘆になる例
「此の旅籠こそ軽かりけれ。守の殿の乗り給へらば、重くこそあるべけれ。」と言へば、《今昔》
(谷底からかごを引き上げながら)「このカゴは軽いなあ。国司殿が乗っていらっしゃるならば、重いはずなんだが。」と言うと、
会話の「けり」が詠嘆になる例
「用無きありきは由無かりけり。」とて来ずなりにけり。《竹取》
熱心でない人たちは、「(誰とも結婚する気のないかぐや姫の家まで)無駄に(気を引こうと)歩きまわるのは、つまらないなあ。」といって、来なくなってしまった。
会話の「けり」が詠嘆になる例
此の楫取りは、日もえ計らぬ乞食なりけり。《土佐》
この船頭は、天気もしっかりと予測できない愚か者であるなあ。
「なりけり」の「けり」が詠嘆になる例
世には斯かる痴の者も在るなりけり。《今昔》
世の中には、このような愚かな者もいるのだなあ。
「なりけり」の「けり」が詠嘆になる例
月のいと花やかに差し出でたるに、「今宵は十五夜なりけり。」と思し出でて、《源氏》
月が一際美しく空に出ているので、光源氏は「今夜は十五夜だなあ。」と思い出しなさって、
「なりけり」の「けり」が詠嘆になる例
「朕をば謀るなりけり。」とてこそ泣かせ給ひけれ。《大鏡》
花山天皇は、「道兼は私をだまし(て出家させ)たのだなあ。」。」といってお泣きになった。
「なりけり」の「けり」が詠嘆になる例
和歌の「けり」が詠嘆になる例